英雄か、犯罪者か

そして報道がもたらす被害について

作品

  • 監督

クリントン・イーストウッド

  • 脚本

トッド・コマーキニ

  • 出演者

トム・ハンクス

アーロン・エッカート

ローラ・リニー

あらすじ

ハドソン川不時着事故から数日後、チェスリー・サレンバーガーと副操縦士のジェフリー・スカイルズを筆頭とした乗務員たちは世間から国民的英雄として賞賛される一方、国家運輸安全委員会 (NTSB) によって事故原因の調査が行なわれていた。その過程で彼の判断が適切であったかどうか、また、左エンジンが本当は動いていたのではないかという疑いを持たれ、彼は空港への着陸が可能だったとするNTSBから厳しい追及を受ける。彼はホテルでの待機を余儀なくされ、妻との再会もできない中、しだいに自身の判断が正しかったのかという不安に苛まれる。


『ハドソン川の奇跡』特別本編映像

感想

英雄か犯罪者か

この映画を鑑賞したいときに思い出した映画が、デンゼル・ワシントン主演「フライト」だ。

今作と「フライト」とのストーリーの大枠は基本的には同じである。違う点は最終的に「英雄」になったか「犯罪者」になったかだ。そして今作は英雄になれたほうの物語であった。

飛行機事故に関してパイロットは事故後、生存死亡に関わらず調査を受けることによる。それは事故の要因が機体にあるか、人にあるか、はたまた両方にあるかを調査し、今後の事故防止に役立てる情報を得ようとするためである。今作はその調査を受けたパイロットの苦悩と戦いであった。主人公であるチェスリー・サレンバーガーは事故を起こした後、運輸局から厳しい責問を受ける中で次第と自分の行いが本当に正しかったのかを考えるようになっていくが、その描写が非常に痛ましかった。必死の判断で乗員全員を助けたのにも関わらず、運輸局からは犯罪者のような扱いを受け、なおかつ事故のフラッシュバックならぬ幻覚を随所に散見でき、その事故から受けた傷というものは非常に大きいものと感じた

事件に対する世間と本人のギャップ

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本作の主題歌もしれないと思っている。

事故発生当初、本機長は失意の中にいた。もちろん不時着事故を起こしたので無理はない。しかしその心情とは裏腹にマスコミや世間は彼を英雄だと叫び、事件発生後から世界中で騒がれた。彼にとってこの不時着事故はまだ調査中であるため、もしこの事故において自らの過失が認められれば、世論は一斉に意見を変え機長を糾弾するだろう。機長はそれが怖かった。そして夜な夜なその幻覚を見るまで彼の精神は追い込まれていた。

ここから分かるように、世論やメディアは人を殺す。本人の意思とは関係なくされる報道が本人の意図せぬ方向へ進むことによって、事件や事故で傷ついた本人がさらに追い込まれる状況が生まれる。日本でもそれに近い状況はいくらか散見できた。その一例を述べたい。

大阪府吹田市の遊園地「エキスポランド」ジェットコースター脱線事故は覚えているだろうか? 20人が死傷した事故で非常に痛ましい事故であった。その2両目に乗っていて死亡した小河原良乃さん19歳は事件後、その「若さと女性」であるという事で様々な方面から悲しむ声が聞こえてきた。被害者の情報を含め報道された情報はネットメディア、掲示板など瞬く間に広まり、事件の特殊性と共に大きな話題となっていた。

ここでネットでは彼女の容姿について取り沙汰された。2chをはじめとする掲示板では「かわいいい」「美人」など脳内補完的な憶測が飛び交い、被害者の偶像がみるみる出来上がっていったのである。しかしその後、被害者顔画像が公開されたとたん、ネットやメディアは手の平を返し、被害者に「ブス」「デブ」「心配して損した」「死んでいいよ」などという言葉を浴びせた。

その段階で彼女は被害者ではなく、ネットの「おもちゃ」になってしまったのだ

この現象は本人や遺族の意思には関係なく進んだ事柄である。

結局他人事である報道されたことに対して、それをネタにし自分の楽しむおもちゃとすることは、程度の差はあれ報道の向こうで現実の人間が傷ついていることを想像できない人であるということだ。世界にはそのような人が多すぎる。

ハドソン川の奇跡と持ち上げられた今作の主人公も報道当初は、気持ちが整理ついていない状況であったにも関わらず、連日訪れるマスコミと流れるニュースに辟易としていただろう。そして自分の過失が認められ時に、世論の論調が変わるのがとても怖かったであろう。

そのような心境を察すると、胸が苦しくなる

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【おすすめ度】

☆☆☆☆☆

物語に様々な意見が隠されていると感じた本作だが、クリントン・イーストウッド作品にしては普通の出来栄えだ。非常に臨場感がある作品であり、俳優陣も最高であったが物語としては普通であった。

シンプルな構成だが時々テンポの悪さを感じる事があり、間延び感があった場面もあったし、メッセージ性が他作品より薄いと感じて込み上げてくるものが少なった。

しかし感情を揺さぶられるシーンは数多くあり、さすがだなと思うシーンも幾度もあった。見なくていい作品ではない。むしろ見てほしい作品だ。だが他の同監督作品よりは期待しなくていいかなというところはある。

著・なめこ汁

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